前の20件 | -
ご無沙汰しておりますが… [お断り]
夏以来、体調管理に気をつけてはいるものの、なかなかPCに向かえない日々が続いております。
先週から別ブログ(このブログとは開設意図が異なるため)を開設し、記事を載せ始めました。
こちらの記事はかなりゆっくりペースの更新になると思います。
先週から別ブログ(このブログとは開設意図が異なるため)を開設し、記事を載せ始めました。
こちらの記事はかなりゆっくりペースの更新になると思います。
トライアスロン [エッセイ]
トライアスロンの観戦に行ってきた。
最近の私は、自分に息切れしているところがあって、納得のいかない感情や、奮い立たない萎えた心との共存に体までもがバテ気味だった。
厳しい競技にもかかわらず、涼しげな表情でスイム、バイク、ランの三種目をこなす競技者。肉体、精神の衰えを感じさせない高齢の競技者。様々な競技者がいたが、共通しているのは、己との戦いに挑んでいるということ。肉体や精神の大丈夫なところ、傷んだところを感知しながら自分をぐいぐいと誘導する。競技者たちの内なる動力に魅せられて、何度も沿道からファイトと声をかけたが、私は私に声援を送っていたのかもしれない。
それが何であれ、終了後は不満足と満足が残る。不満足は次への活力となり、満足は己を信じる強さになる。最近の私は、不満足からも満足からも目をそらしていた。自分への声援も足りなかった。
ずっと頑張り続けることはできない。また、その必要もない。大切なのは、走り続けられなくなったときに、走り続けられなくなった事実を受け止めることである。自分の限界や弱さを認めることである。認めるという行為は弱さではなく強さである。
声援を送る側も送られる側も、人間の持つエネルギーに魅了され続けたトライアスロン競技であった。そして、このことはトライアスロンだけのことではないのだ。
最近の私は、自分に息切れしているところがあって、納得のいかない感情や、奮い立たない萎えた心との共存に体までもがバテ気味だった。
厳しい競技にもかかわらず、涼しげな表情でスイム、バイク、ランの三種目をこなす競技者。肉体、精神の衰えを感じさせない高齢の競技者。様々な競技者がいたが、共通しているのは、己との戦いに挑んでいるということ。肉体や精神の大丈夫なところ、傷んだところを感知しながら自分をぐいぐいと誘導する。競技者たちの内なる動力に魅せられて、何度も沿道からファイトと声をかけたが、私は私に声援を送っていたのかもしれない。
それが何であれ、終了後は不満足と満足が残る。不満足は次への活力となり、満足は己を信じる強さになる。最近の私は、不満足からも満足からも目をそらしていた。自分への声援も足りなかった。
ずっと頑張り続けることはできない。また、その必要もない。大切なのは、走り続けられなくなったときに、走り続けられなくなった事実を受け止めることである。自分の限界や弱さを認めることである。認めるという行為は弱さではなく強さである。
声援を送る側も送られる側も、人間の持つエネルギーに魅了され続けたトライアスロン競技であった。そして、このことはトライアスロンだけのことではないのだ。
リセット [詩]
ことのは その二十五 [ひとこと ふたこと]
「言ってくれれば分かったのに。」という人間は、所詮、物事の本質を理解できない。
ことのは その二十四 [ひとこと ふたこと]
ふたりだけの約束より
ふたりだけの秘密の方が
ふたりの結びつきを強める
ふたりだけの秘密の方が
ふたりの結びつきを強める
箱 [詩]
寂しさを箱に詰めて
持ち歩いているような人だった
わたしには
その箱の隙間を埋めることも
その箱の中身を一緒に捨てることもできず
ただ彼の中の箱を見つめているしかできなかった
箱が
カタカタ鳴っている
彼の寂しさが
カタカタ鳴っている
共鳴して
わたしの箱もカタカタ鳴り出した
心が心を抱きしめられなかった
持ち歩いているような人だった
わたしには
その箱の隙間を埋めることも
その箱の中身を一緒に捨てることもできず
ただ彼の中の箱を見つめているしかできなかった
箱が
カタカタ鳴っている
彼の寂しさが
カタカタ鳴っている
共鳴して
わたしの箱もカタカタ鳴り出した
心が心を抱きしめられなかった
賭け [詩]
始まったばかりなのに
いつ終わるのだろうかと
心配するような恋は
もうやめにしよう
今の高まりを胸に
どこまで深く愛せるか
自分に賭けてみよう
心配なら もっと愛せ
不安なら もっと愛せ
愛することの罪悪は
古代より絶えることなく
未来もまた 変わりないだろうから
いつ終わるのだろうかと
心配するような恋は
もうやめにしよう
今の高まりを胸に
どこまで深く愛せるか
自分に賭けてみよう
心配なら もっと愛せ
不安なら もっと愛せ
愛することの罪悪は
古代より絶えることなく
未来もまた 変わりないだろうから
日曜23時 [詩]
点滅した信号と
車内のほの明るい表示
溜息と後悔と懺悔を乗せて
アクセルを踏み込む
今日も終わる
今週が終わる
仕事 仕事 仕事で
今週もまた会えなかった
ごめん
今度ゆっくり家で映画を見よう
…何度キャンセルしただろう
流した音楽に紛れて叫びたい
ごめん
本当にごめん
会えなくてごめん
寂しくさせてごめん
日曜の夜は
点滅信号が殊更キツイ
僕らへの警告ランプのようで
僕への警告ランプのようで
赤でも黄でも
もういい加減にしろと
僕に迫ってくる
23時20分
今日もあと40分
心の中で謝るしかない40分
重くなりすぎた溜息が出なくて
窓を全開にするミッドナイトラン
今週もまた会えなかった
誰かいいやつ探せとも言えなかった
何も言えなかった
――――――――僕
溜息と後悔と懺悔を乗せた
ミッドナイトラン
星空が心に広がりすぎる
日曜23時
車内のほの明るい表示
溜息と後悔と懺悔を乗せて
アクセルを踏み込む
今日も終わる
今週が終わる
仕事 仕事 仕事で
今週もまた会えなかった
ごめん
今度ゆっくり家で映画を見よう
…何度キャンセルしただろう
流した音楽に紛れて叫びたい
ごめん
本当にごめん
会えなくてごめん
寂しくさせてごめん
日曜の夜は
点滅信号が殊更キツイ
僕らへの警告ランプのようで
僕への警告ランプのようで
赤でも黄でも
もういい加減にしろと
僕に迫ってくる
23時20分
今日もあと40分
心の中で謝るしかない40分
重くなりすぎた溜息が出なくて
窓を全開にするミッドナイトラン
今週もまた会えなかった
誰かいいやつ探せとも言えなかった
何も言えなかった
――――――――僕
溜息と後悔と懺悔を乗せた
ミッドナイトラン
星空が心に広がりすぎる
日曜23時
ことのは その二十三 [ひとこと ふたこと]
人を傷つけることによってしか自分を守れない人がいる。
二十年目、故郷で (39) [小説]
精神安定剤を鞄の中に探っていると、大石の名刺が出てきた。玄関に置かれる「雪だるま」牛乳のことを思い出して、余計に具合が悪くなってきた。キャリーバッグがぶつかったくるぶしも痛い。薄い皮がずれて血が滲んでいる。ここで初めてブーツを履くことも思いつかないほど慌てて飛び出してきた自分に気がついた。半分笑うように大きく息を吐き出しながら口を開けて、わたしは辺りを見回した。商店街か。アーケードからクリスマスソングが流れている。もう十一月も終ったのだ。これまでの不快な心のよどみを、十一月の憂鬱という箱の中に閉まってまた歩き出さねばならない。自分の居場所とか孤独感とか、一歩離れて見ればちっぽけな悩みに過ぎないことに振り回されてはいけないのだ。十一月という季節の曖昧さが、自分というものも曖昧にさせていたのだと思って、箱の蓋を閉めねばならない。ここはこんなにも暖かい。カラカラに乾いてしまう東京辺りと違って、氷見の海岸沿いには体から全てを奪い去ってしまうような風は吹かない。太平洋側とは湿度が違うのだ。冬の寒さが足りない気がするのは、「わたしがここにいない」からだ。子供騙しのようなクリスマスソングが静かな商店街をより一層白々しくさせる。奥歯をぐっと噛みしめて背筋を伸ばした。「もう錯覚の温もりの中には戻らない。」
変えよう。変わってみよう。わたしはそのとき、十二月初めのそのとき、そう思ったに違いない。海や山や小さな町並みを眺めながら、今そう思う。
うん、と答えるかどうか少しだけ迷った。遅刻常習犯のジェイが運転席で珈琲に手を伸ばしている。海に向かって車を止めるのはジェイのいつもの行動だ。
「もう大丈夫だからさ。今のオレなら大丈夫よ、多分。」
そう、とだけ言ってわたしはハンバーガーをかじった。目だけ動かして右を見ると、ジェイがこちらをじっと見ている。
「これからは何も心配しなくていいよ。オレが君を守るから。君は女でいればいい。」
何も返事をしていないのにジェイは話をどんどん進める。わたしがジェイと付き合うのを拒否するはずがないと思っているのだ。
変えよう。変わってみよう。わたしはそのとき、十二月初めのそのとき、そう思ったに違いない。海や山や小さな町並みを眺めながら、今そう思う。
うん、と答えるかどうか少しだけ迷った。遅刻常習犯のジェイが運転席で珈琲に手を伸ばしている。海に向かって車を止めるのはジェイのいつもの行動だ。
「もう大丈夫だからさ。今のオレなら大丈夫よ、多分。」
そう、とだけ言ってわたしはハンバーガーをかじった。目だけ動かして右を見ると、ジェイがこちらをじっと見ている。
「これからは何も心配しなくていいよ。オレが君を守るから。君は女でいればいい。」
何も返事をしていないのにジェイは話をどんどん進める。わたしがジェイと付き合うのを拒否するはずがないと思っているのだ。
言えば分かりますか [エッセイ]
言えば分かる人というのは、ピンとくる人のことであり、こちらがあまり多くを言わなくても大丈夫なことが多く、一緒にいて心地のよい人である。言えば分かる人は、言わなくても分かる人である。
それでは、言わなければならない人というのはどうだろうか。「言ってくれれば分かったのに」と言われるといつも苦笑する。本当に分かったのだろうか。言葉が足りないのは勿論伝える側のミスに違いないが、ここでは物の在り処や書籍名のことを言っているのではない。行動様式における、適切な振る舞いのことである。「言えば分かった」人は、言われなければ分からなかった人である。
大人が「言ってくれれば分かったのに」と言うのは非常に滑稽である。生まれ落ちたときから学習を続けてきた動物の台詞ではない。百の場面で百の説明が要る種は、滅びてしかるべきである。何から何までまったく未知の場というのはあるだろうか。これまでの過程で、示唆されてきたことに注意を払ってこなかっただけではないか。このような人は、物事の本質を理解することは難しい。不可能とさえ言える。そして、恐らく、言えば分かるだろう。が、時間と場面や人が変われば、やはり全く同じ説明を必要とするであろう。
「言ってくれれば分かる」人に、先回りして言ってあげると、こちらが悪者になるから不思議だ。言われても分かりたくないらしい。少々不親切な人間の方が好かれるようだ。
それでは、言わなければならない人というのはどうだろうか。「言ってくれれば分かったのに」と言われるといつも苦笑する。本当に分かったのだろうか。言葉が足りないのは勿論伝える側のミスに違いないが、ここでは物の在り処や書籍名のことを言っているのではない。行動様式における、適切な振る舞いのことである。「言えば分かった」人は、言われなければ分からなかった人である。
大人が「言ってくれれば分かったのに」と言うのは非常に滑稽である。生まれ落ちたときから学習を続けてきた動物の台詞ではない。百の場面で百の説明が要る種は、滅びてしかるべきである。何から何までまったく未知の場というのはあるだろうか。これまでの過程で、示唆されてきたことに注意を払ってこなかっただけではないか。このような人は、物事の本質を理解することは難しい。不可能とさえ言える。そして、恐らく、言えば分かるだろう。が、時間と場面や人が変われば、やはり全く同じ説明を必要とするであろう。
「言ってくれれば分かる」人に、先回りして言ってあげると、こちらが悪者になるから不思議だ。言われても分かりたくないらしい。少々不親切な人間の方が好かれるようだ。
予感 [詩]
黄砂と花粉を運び終えた風が
柔らか味を帯びて
踊り始める
幾分甘い感触は
鼻でも目でもなく
もっともっと奥の方
遺伝子レベルで
萌え始める
何かがちがってきた
何かが巡ってきた
今度はキミの番
瞼の裏の風景を
今度は本当にしてみないか
柔らか味を帯びて
踊り始める
幾分甘い感触は
鼻でも目でもなく
もっともっと奥の方
遺伝子レベルで
萌え始める
何かがちがってきた
何かが巡ってきた
今度はキミの番
瞼の裏の風景を
今度は本当にしてみないか
タグ:詩
幸せのおすそわけ ~観察編~ [エッセイ]
身近なことは案外知らないものである。次の質問に即答できるだろうか。
1 トイレットペーパーはシングルとダブルのどちらを使っていますか
2 ひと月にどれくらいトイレットペーパーを使いますか
3 トイレットペーパーは、ひと巻何メートルのものを使っていますか
トイレットペーパーの特売の案内はよく目にするが、シングルがいいのかダブルがいいのか全く分からない。使い心地優先なのかもしれないが、消費量としてはどちらか得であるのか、調べてみることにした。
先ず始めに、1パックというものを知らなければならない。何個入りのものを購入するかは家庭によって異なるだろうが、家にあったのは12個入りだった。これは一体何日分なのだろうか。さらによく見ると、購入した時期によって1個あたりの巻数が異なる。25メートルから30メートル。これは何日の差になるのだろう。
シングルとダブルのどちらが長持ちするかを調べる前に、ダブルの使用状況を観察することにした。観察は家族には黙って行い、紙の消費や、使用するトイレの場所に意識が集中しないようにした。
方法
紙を取りつける際、芯の内側に日付を入れ、次の紙を使うときまでの日数を調べる。これを繰り返し、12個分の平均を計算する。
まだまだ観察の途中で、結論までは遠いのだが、知らなかったことを知るのはわくわくする。現在までのところ、平均を計算しなくても、紙は同じペースで消費されている。27.5メートルで、5日目になくなる。複数あるトイレの1つに絞っての観察だが、こんなにもきちんとした数字が出るとは驚きである。シングルの場合も同様に観察し、シングルとダブルの違いを明確にしたいと思う。数的違いがないとすれば、使用感のみで購入しても損得はないということになるだろう。
日常の生活に、こうしたちょっとした実験を取り入れてみるのも潤いになる。くだらないと一笑に付するのもまたよし。毎日が遊び感覚というのがたまらなく幸せなのだ。これって幸せかもかも。皆様もどうか遊び心を忘れずに。
1 トイレットペーパーはシングルとダブルのどちらを使っていますか
2 ひと月にどれくらいトイレットペーパーを使いますか
3 トイレットペーパーは、ひと巻何メートルのものを使っていますか
トイレットペーパーの特売の案内はよく目にするが、シングルがいいのかダブルがいいのか全く分からない。使い心地優先なのかもしれないが、消費量としてはどちらか得であるのか、調べてみることにした。
先ず始めに、1パックというものを知らなければならない。何個入りのものを購入するかは家庭によって異なるだろうが、家にあったのは12個入りだった。これは一体何日分なのだろうか。さらによく見ると、購入した時期によって1個あたりの巻数が異なる。25メートルから30メートル。これは何日の差になるのだろう。
シングルとダブルのどちらが長持ちするかを調べる前に、ダブルの使用状況を観察することにした。観察は家族には黙って行い、紙の消費や、使用するトイレの場所に意識が集中しないようにした。
方法
紙を取りつける際、芯の内側に日付を入れ、次の紙を使うときまでの日数を調べる。これを繰り返し、12個分の平均を計算する。
まだまだ観察の途中で、結論までは遠いのだが、知らなかったことを知るのはわくわくする。現在までのところ、平均を計算しなくても、紙は同じペースで消費されている。27.5メートルで、5日目になくなる。複数あるトイレの1つに絞っての観察だが、こんなにもきちんとした数字が出るとは驚きである。シングルの場合も同様に観察し、シングルとダブルの違いを明確にしたいと思う。数的違いがないとすれば、使用感のみで購入しても損得はないということになるだろう。
日常の生活に、こうしたちょっとした実験を取り入れてみるのも潤いになる。くだらないと一笑に付するのもまたよし。毎日が遊び感覚というのがたまらなく幸せなのだ。これって幸せかもかも。皆様もどうか遊び心を忘れずに。
僕は二度泣かない [詩]
これも或る静けさ [詩]
泣かないと
悲しみが沈んで
浮かべなくなる
泣くほどのことではないと思ったら
表面はそのままに
内側だけ薄皮が伸びるように
すーっと心が下に引っ張られる
ささいなことでいらいらしたり
つまらないことに腹を立てたりしなくなった
怒りという感情は抱かない
失望と諦めの感情の中に身を沈める
心は怒らないが
体の一部は静かに怒っているらしい
少し前から
ズキンと疼いて主張している
静かに怒ると
ただひたすら悲しくて
それから急に無気力になる
悲しみが沈んで
浮かべなくなる
泣くほどのことではないと思ったら
表面はそのままに
内側だけ薄皮が伸びるように
すーっと心が下に引っ張られる
ささいなことでいらいらしたり
つまらないことに腹を立てたりしなくなった
怒りという感情は抱かない
失望と諦めの感情の中に身を沈める
心は怒らないが
体の一部は静かに怒っているらしい
少し前から
ズキンと疼いて主張している
静かに怒ると
ただひたすら悲しくて
それから急に無気力になる
タグ:詩
呪縛 [詩]
すくわれるべきは
あなたでも
だれでもなくて
私自身
私自身がゆるせないのは
あなたでも
だれでもなくて
私自身
あいされるべきは
私自身
私が私をかいほうすれば
私は私にあいされる
そして私はゆるされる
そして私はすくわれる
あなたでも
だれでもなくて
私自身
私自身がゆるせないのは
あなたでも
だれでもなくて
私自身
あいされるべきは
私自身
私が私をかいほうすれば
私は私にあいされる
そして私はゆるされる
そして私はすくわれる
タグ:詩
雨 [詩]
ぎゅっ ぎゅっ
ぎゅっ。ぎゅっ ぎゅっ
一粒一粒が…押す
鼻先を
手の平を
頬を
嗚呼 量感
こんなにも確かな
こんなにもしっかりとした足跡
君はそんなにも実感を伝えたいのか
生きているという実感
関わるものが在るという実感
ぐいぐいと力が伝わる
僅かな圧力が
わたしを満タンにする
ぎゅっ。ぎゅっ ぎゅっ
一粒一粒が…押す
鼻先を
手の平を
頬を
嗚呼 量感
こんなにも確かな
こんなにもしっかりとした足跡
君はそんなにも実感を伝えたいのか
生きているという実感
関わるものが在るという実感
ぐいぐいと力が伝わる
僅かな圧力が
わたしを満タンにする
二十年目、故郷で (38) [小説]
三つ目の「雪だるま」牛乳が玄関先に置かれていたのは、十二月二日か三日。遠い「ひるがの高原」から運ばれたのが夜中か明け方か分からないので、そうとしか言いようがない。十二月三日の昼頃、大石からメールが届いた。出張土産です、とあった。こんなことをされては困るとすぐに返信したが、それ以降届いたのは、全く関係のないことの書かれたメールだけであった。牛乳というのも妙だが、家の玄関は、敷地内を少なくとも五メートルは歩かなければならない位置にあるので、牛乳は不法侵入により置かれていることになる。敷地内には鉢植えや車もある。牛乳の第一発見者になっている母親は、彼の家まで返しに行ってはどうかと提案したが、それは無理だった。故郷に住んでいながら、故郷に関する記憶が全くないわたしである。自分の生年月日さえ覚えていないのに、彼の住所など知るはずがなかった。大石と最後に電話したのは十月の半ばくらいだったろう。それきりメールもきていなかった。何も話すことはないのだが、このまま牛乳のことを保留にしておくわけにもいかない。
「もう置かないでってメール送りましたから。」
母親にそう言って二階の自室に戻ったものの、ちゃんと大石に伝わっているかどうかは疑問だった。
医者が言った通り、記憶は全然戻りそうになかった。思い出そうとしても、ただひたすら真っ白だった。頭痛や吐き気がした。無理に思い出そうとするなという医者の言葉の意味がよく分かった。自分はもう記憶などいらないと思っているのだが、周りは記憶が戻ることを望んでいる気がする。あてがわれている十畳の部屋で、わたしはひどく孤独だった。母親に対して他人行儀に振舞ってしまう自分を責めるのにももう疲れてしまった。エルヴィス・プレスリーのCDをプレーヤーにセットし、リモコンの音量スイッチを押し続けた。部屋全体がわななくように振動し始めた。ペン立てから油性の黒マジックを抜き取り、鏡台へ向かった。鏡を覆っている布を外し、マジックの太い方で縦に横に斜めに「黒」を塗りつけた。頭の中は真っ白なのに、心の中は目の前の鏡面のように、黒いものが濃く、或いは薄く、霞んでいた。幾ら塗っても足りなかった。
「すぐりさん」
エルヴィスの声の間から「母親」の変に優しい声がした。わたしはリモコンのスイッチを押し、それを棚へは戻さずに壁に向かって投げた。リモコンは壁ではなく障子窓の方へ飛んで行き、障子を破ってガラスに当たり、そしてやっと、下に落ちた。エルヴィスはハートブレイク・ホテルを歌うのを止め、代わりにリモコンがゴトリといった。その落下音で黒い霞みが塊となった。化粧瓶にマジック、本、オルゴール・・・わたしは手当たり次第に壁に障子に投げつけた。投げつけるものが何もなくなったとき、わたしは自分の鼓動が速くなっているのに気づいた。そんなことすら忌々しく、また何か投げたくなったが、もう何もなかった。散乱した物で開きにくくなっている押入れから緑のキャリーケースを引っ張り出し、わたしは外に出た。
帰ろうと思った。もう帰ろう、と思った。
「もう置かないでってメール送りましたから。」
母親にそう言って二階の自室に戻ったものの、ちゃんと大石に伝わっているかどうかは疑問だった。
医者が言った通り、記憶は全然戻りそうになかった。思い出そうとしても、ただひたすら真っ白だった。頭痛や吐き気がした。無理に思い出そうとするなという医者の言葉の意味がよく分かった。自分はもう記憶などいらないと思っているのだが、周りは記憶が戻ることを望んでいる気がする。あてがわれている十畳の部屋で、わたしはひどく孤独だった。母親に対して他人行儀に振舞ってしまう自分を責めるのにももう疲れてしまった。エルヴィス・プレスリーのCDをプレーヤーにセットし、リモコンの音量スイッチを押し続けた。部屋全体がわななくように振動し始めた。ペン立てから油性の黒マジックを抜き取り、鏡台へ向かった。鏡を覆っている布を外し、マジックの太い方で縦に横に斜めに「黒」を塗りつけた。頭の中は真っ白なのに、心の中は目の前の鏡面のように、黒いものが濃く、或いは薄く、霞んでいた。幾ら塗っても足りなかった。
「すぐりさん」
エルヴィスの声の間から「母親」の変に優しい声がした。わたしはリモコンのスイッチを押し、それを棚へは戻さずに壁に向かって投げた。リモコンは壁ではなく障子窓の方へ飛んで行き、障子を破ってガラスに当たり、そしてやっと、下に落ちた。エルヴィスはハートブレイク・ホテルを歌うのを止め、代わりにリモコンがゴトリといった。その落下音で黒い霞みが塊となった。化粧瓶にマジック、本、オルゴール・・・わたしは手当たり次第に壁に障子に投げつけた。投げつけるものが何もなくなったとき、わたしは自分の鼓動が速くなっているのに気づいた。そんなことすら忌々しく、また何か投げたくなったが、もう何もなかった。散乱した物で開きにくくなっている押入れから緑のキャリーケースを引っ張り出し、わたしは外に出た。
帰ろうと思った。もう帰ろう、と思った。
タグ:小説
前の20件 | -







